一目置く
2019_08_08
画像は日本棋院HPより
私が囲碁を始めたのは今から約40年ほど前です。家業を手伝うために実家に帰った時に父から手ほどきを受けました。当時の私は囲碁を知らなかったのですが、石を置いていくうちに何となく面白いと感じました。父は5級くらいだったと思います。
初心者の頃は何故、このような打ち筋になるのかということに驚きの連続でした。
実を言うと、私と父はあまり仲が良くなかったのです。それで碁を打つことによって少しでも気持ちが近づいていけたらと思いました。私と父の碁は、父が八十歳くらいになるまで続きました。その姿は、むしろ仲の良い父子であったのかもしれません。
往時、私が住む町にも碁会所があり、三十人ほどの会員が在籍していました。いろいろな人と碁を打つことによって、少しづつ上達をしました。碁会所に通い始めて四・五年で一級になったのですが、早い人では一年程度で初段になる人もいます。
私が初段に昇進するのには十年ほどを要しました。それほど私にとって初段の壁が厚かったのです。それでも不思議なことに、その壁を超えると後はスムーズに感じられました。この人には勝てまいと思う相手に、知らず知らずに追いついていました。
ところで碁会所では、毎年五月になると松前で大会があり、道南各地から碁打ちが集まりました。夕方になると大会も終わり、親睦会として松前城址公園で花見をするのが恒例です。茣蓙(ござ)に座り酒をのみ始めると、丁度桜の花が盃の中に入り込み、それは絵巻物のような趣のある光景でした。
現在囲碁は、知能スポーツとして国際的には普及を見せていますが、国内では打ち手が減少しています。私の町も同様です。そこで私は、たまに函館の碁会所に足を運びます。そこはレベルがとても高いのです。
七十代の方が主流の高段者ぞろいで、皆が先生に見えます。そこで私は一目を置き碁を打ち始めるのです。
余談ながら十年以上も昔、家庭料理屋の一隅で碁会所を開いていたことがあります。当時の私は三段程度の腕前にすぎませんでしたが、ともかく看板を出しました。
男性客は結果的には私より格上の打ち手ばかりでした。女性客は教え方もよくわからない私のところに、よく来てくれていたと思います。場所柄、酒をのみながら碁を打つので、その延長で近所のスナックに足を運ぶこともままありました。
その碁会所は三か月足らずの運営でしたが、ひとときの出来事として楽しく思い出されます。
Gumyou