みそぎ浜に吹く風

個人が運営する地域の新聞のようなスタンスを目指しています。ご意見やご要望はコメントで、お気軽にお寄せください。

断崖に挑む①千軒岳

 「山登りでもしませんか。」喫茶店のママから、そう誘われた。事実、休みの日はこれと言ってすることもなかったので、山登りを始めることにした。それまでは町の裏手にある薬師山や萩山にさえもめったに登ることはなかった。

 

 道南では四月には雪も溶け、五月に桜が咲くと春が来たとようやく感じられる。それでも高い山には雪が残っている。あれは6月のことだったろうか。

 

 「まずは千軒岳に登りましょう。」ということになった。ちなみに、千軒岳は福島町、松前町、上ノ国町に囲まれていて、どの町からも登ることができる。正式名称は大千軒岳で標高は1072メートル、中級者向けの山だ。それまで知ってはいても登るのは初めてだ。中年女性でも登っているということでごく軽く考えていた。

 

 当日の早朝、着替えなどをリュックサックに詰め込んで喫茶店前に集合した。他に2人の女性がいて計4人で福島町を目指した。

 40分ぐらいで登山道入り口に着き、そこから更に山道を入って行くと少し開けた広場があった。そこには函館から来た人たちも含めて20人くらいの人が集まっていた。責任者の方から軽い説明があり、いよいよ出発だ。

 

 すると、すぐに吊り橋があったり、道幅が20センチメートル位の険しい道を登ったり、下ったりの連続である。(これは大変だ)と気付いた時はすでに遅し。なんとか後を付いていくほかない。一人で、引き返す勇気などあろうはずもない。

 どうにかこうにか登っているうちに、とんでもない光景が現れた。なんと急な斜面の上から10メートル位の鉄の鎖のようなものが垂れ下がっている。それに摑まり岩肌を登らなければ脱落する。「ウソだろう、冗談きついべや。」

 

 山登りが楽しいなんて誰が言ったのか...かくして5時間近くかかり、ようやく頂上に着いた。空は晴れ、おにぎりは美味かった。-ああ、これが登山というものか-こんな思いをしてまで人は何故山に登るのだろう。そう思った。

 

 この十年ほどは登山から遠ざかっていた私だが、今年は、日本一参拝が困難と言われる桧山地区の太田山神社に挑む予定である。少しの階段を上った程度でも息が切れるようになった身体を、少しづつでも鍛えていきたい。