札苅にプロレスが来た！

　札苅という小さな町にプロレスの一行が来た。国道から山の手に少し入った小高い所に札苅小学校の体育館が見える。校舎は円形であり、教室は扇形である。見ようによって、これは闘技場である。すぐ側を「いさりび鉄道」が通っている。

　九月も後半になると夕方の五時半には辺りは暗くなっている。体育館の照明の中にリングが浮かび上がっている。リングの周りにはイスが３列に並べられていて、既に半分近くが埋まっている。体育館の前には屋台が出ていて焼き鳥やビール、ご当地グルメの和牛コロッケ、ジンギスカンなども販売されていて、それなりに賑わいを演出している。

　屋台での買い物を済ませ私は会場に入った。ふと気が付くと周りのイスはほぼ満席になっていた。小学生の男児やママさんが半数だろうか。ざっと数えたところ150人ほどがいたようだ。

　試合が始まる前の余興としてプロレス教室があり、男の子が５，６人リングに上がった。子供たちは、怖がりながらもレスラーに飛び掛かっていく。ヒーローになった気分なのか、リングから降りても興奮気味である。見守っていたママさんたちにも熱が入る。

　いよいよ試合が始まると、レスラーの動きは田舎の興行とはいえ様になっていた。相手を場外に落とす。ひらりとトップロープを越えて相手に強烈な体当たりを浴びせる。観客は逃げ回る。場外乱闘を間近で見ながら私もビールを片手に逃げられる準備をしていた。　

　かくしてあっという間に過ぎた二時間。前列のママさんは去り行くレスラーに握手を求めている。彼らのショーは成功の裡に幕を閉じた。まるで英雄が来て、足早に去っていくが如き熱狂であった。

 その晩、私は心地よい酔いであった。　　

2019_10_22　

             GUMYOU